なぜ銀行はデビットカードの発行に血道を上げているのか

なぜ今、デビットカードなのか


 最近、テレビや新聞でもデビットカードの広告を目にする機会が増えました。以前はネット銀行だけが発行していましたが、地銀やメガバンクも相次いで参入し、熾烈な顧客獲得競争を繰り広げています。


 ではどうして、今銀行各社はデビットカードの発行に力を注いでいるのでしょうか。その背景にある事情を、銀行業界を取り巻く「環境」やデビットカードならではの「うまみ」という視点から解説していきます。





銀行業界を取り巻く環境


 昨今の銀行は投資信託や保険の販売、カードローンなどを新たな収益源として必死に開拓しており、デビットカードの発行もそうした流れの一つと捉えることができます。こうした「新規領域」の開拓には、銀行業界が置かれた厳しい状況が背景にあります。


超低金利政策で銀行が窮地に立たされている


銀行が儲からなくなってきた


 旧来の銀行の業務は、預金を預かってその資金を企業などに貸し付けるというものでした。しかし、このようなビジネスモデルが日銀の「超低金利政策」によって壊滅的な状況に追い込まれています。


 地方銀行協会の資料によれば、銀行がお金を預かって貸し付ける際の金利差(預貸金利鞘という)は、2011年に0.58%あったのが2016年には0.34%にまで縮小しています。


 この水準では銀行は利益を出すことが出来ず、旧来の業務だけでは赤字に陥ってしまう銀行が既に多数出てきています。


 預金を集めて貸し出すだけでは銀行が成り立たなくなってしまったため、銀行各社は生き残りを掛けて保険や投資信託などを売って「手数料」を稼いだり、消費者向けに高い金利でお金を貸す「カードローン」に力を注いでいます。


デビットカードならではの旨味とは


 続いて、銀行がデビットカードに積極的な理由を解説します。


こんなに美味しいカード事業


 銀行の支店やスーパーなど、色んな場所でしつこくクレジットカードの勧誘を受けた経験はありませんか?


 クレジットカードは、発行している会社に大きな利益をもたらしてくれます。だからこそ、色んな会社が必死にカード会員を増やそうと努力しています。


カードは儲かる


 カードを利用してくれると、業種にもよりますがカードが使われたお店から発行会社に3%程度の「加盟店手数料」が支払われます。
 クレジットカードは1枚平均で年間63万円の利用があるといいますから、加盟店手数料だけで1枚1.9万円の利益を生み出すことになります。
 また、カードを使ったキャッシングやリボ払いによって発生する「金利」も、発行会社にとっては美味しい収入源となっています。


 ちなみに、全国に店舗をかまえる「丸井」という百貨店がありますよね。「OIOI」という看板で有名なお店です。この会社は、1960年からクレジットカードの発行に力を入れていたおかげで、今や百貨店を始めとする小売事業の2倍の利益を、カード事業から得ています。


クレジットよりも低リスクなデビットカード


 「おいしい」カード事業ですが、リスクもあります。
 クレジットカードは利用とお金の引き落としのタイミングに差があるため、消費者にとっては一時的に借金をしているようなものです。また、自分が持っている以上の金額を利用出来るため、常に一定の貸し倒れリスクが存在します。


デビットカードはリスクが小さい


 一方、デビットカードは預金残高以上を利用することは出来ません。また、利用と引き落としが同時に行われるため、基本的に貸し倒れリスクはゼロです。クレジットカードと比べて、発行する会社にとっても圧倒的に低リスクです。


 反面、クレジットカードで得られるキャッシングやリボ払いによる金利収入はありませんが、リスクに敏感な銀行にとっては貴重な収益源となるわけです。


ATM事業の赤字を縮小する効果も


ATMは実は赤字  雀の涙程度の利息しか付かないのに、ATMの利用手数料を取られるのはケシカラン。そう思っている人も少なくないでしょう。


 ですが、ATMで100円200円の手数料を取ってはいるものの、ATM事業が「慢性的な赤字」という銀行は少なくありません。最大手の三菱東京UFJ銀行でもATMの運営は赤字です。


 銀行としては出来ればATMは利用してほしくないですし、台数も削減したいと考えています。しかし、そのようなことをすれば顧客の反発を招きますし、投資信託や保険を売りつける「カモ」を逃してしまいかねません。


 そこでデビットカードが役立つのです。
 あらゆる支払いでデビットカードを使うようになると、現金が必要なくなります。現金が必要なくなれば、ATMに行く機会も減るため、銀行にとっては万々歳というわけです。


乗り遅れると大変なことに・・?


 多くの銀行がデビットカードの発行に力を入れている中、「デビットカード競争」に乗り遅れることは将来的にその銀行の経営をも揺るがしかねない事態を招く可能性があります。


セブン銀行の特有の事情とは


 セブンイレブンや駅構内などで見かけるセブン銀行のATM。便利な場所にありますし、色んな銀行のキャッシュカードを使えるので、利用した経験がある人も多いはずです。


セブン銀行


 しかし、セブン銀行の口座を持っている人はどうかというと、それほど多くありません。2017年3月末時点で169万口座が開設されていますが、同じく小売業を母体とするイオン銀行の3分の1ほどの口座数に留まります。


 口座数は少ないものの、セブン銀行は他の金融機関から得るATMの利用手数料によって高い利益率を誇っています。口座数が3倍以上あるイオン銀行の、2倍の利益を上げており、銀行業界からも一目置かれる存在です。


 ですが、ATM手数料はATMを利用してもらわなければ発生しません。各銀行がデビットカードの発行に力をいれ、現金離れが進めばATMの利用が減り、セブン銀行の収益が減少する恐れがあります。


 こうした事態にセブン銀行も手をこまねいているわけではなく、自社でセブン銀行のJCBデビットを発行し、顧客の獲得を進めています(ちなみに当サイトでも人気のカードです)


まとめ デビットカードは銀行の救世主


 こうした事情があるため、銀行にとってデビットカードは救世主的な存在と言えそうです。今後もますます「デビットカード競争」が激しくなっていくことは間違いないでしょう。




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