中国製電子機器が危険と言われている理由を解説
昨今、日本でも中国製の電子機器のリスクに対して懸念が高まっています。ではどうして中国製の電子機器が「危険」と言われているのか、新聞記事を引用しながら解説します。この記事を読めば何がリスクで、何が安全なのかが分かるようになります。
目次
米国や日欧で危険視されている中国製電子機器
米国や日本、欧州の一部の国では中国製の電子機器を「排除」する動きを政府が見せています。以下に代表的な事例を新聞記事からまとめます。
米国の事例
米国ではファーウェイやZTEといった中国メーカーの製品を政府機関から排除する動きが、トランプ政権以前からあります。
米国で、通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)[HWT.UL]など中国企業5社の製品を利用する企業からの政府調達を禁止する規則が13日に施行された。
引用元:米、ファーウェイなど中国5社の取引先排除 政府調達を禁止(ロイター)
中国メーカー製の電子機器には「国家安全保障上のリスク」があるとして排除が進んでいます。
米国連邦通信委員会(FCC)は11月25日、安全保障上の脅威となり得る通信機器について、米国内への輸入や販売に関する認証を禁止する行政命令を発表した。対象は、中国の華為技術(ファーウェイ)と中興通訊(ZTE)が製造または提供する通信機器や監視カメラのほか、ハイテラ、ハイクビジョン、ダーファが製造または提供する監視カメラや通信機器のうち、国家安全保障上の用途となるもの。これらの輸入や販売に関する認証の禁止で、実質的に米国内での販売を禁止したことになる。
引用元: 米連邦通信委、安全保障上の脅威となる通信機器の中国5社からの輸入・販売認証を禁止 (ジェトロ)
日本の事例
日本も米国に歩調をあわせる形で、政府の調達から一部の中国メーカーの製品を除外する動きを見せています。
政府は、中央省庁などが使用する製品・サービスなどから、中国の華為技術(ファーウェイ)[HWT.UL]と中興通訊(ZTE)<000063.SZ><0763.HK>の製品を事実上排除する見通しだ。
引用元:日本の政府調達からファーウェイとZTEを排除へ=関係筋(ロイター)
政府の調達だけでなく、民間のインフラ企業レベルでも自主的な動きとして中国メーカーの通信機器を排除する動きもあります。
ソフトバンクは現行の携帯電話の通信規格「4G」の設備について、華為技術(ファーウェイ)など中国製の基地局をなくす方針を固めた。
引用元:ソフトバンク、既存基地局もファーウェイ製排除(日本経済新聞)
欧州の事例
欧州でも一部の国が中国製の通信機器を排除しようとしています。
英国政府が部分容認という従来の方針を翻し、次世代通信規格「5G」から中国・華為技術(ファーウェイ)の機器を2027年までに排除すると決めた。
引用元:[社説]ファーウェイ排除にかじを切った英政府(日本経済新聞)
英国では民間の通信会社がファーウェイを排除しなかった場合、売上高の10分の1の罰金を科す厳しい規制も導入しています((日本経済新聞))
ドイツ政府は11日、国内の通信会社に対し、2026年末までに高速通信規格「5G」の通信網で中国の華為技術(ファーウェイ)と中興通訊(ZTE)の利用を禁じるよう命じたと発表した。27年末までに他社の製品・サービスに切り替えるよう義務づけた。
引用元:ドイツ政府、26年末までにファーウェイ排除 5G通信網(日本経済新聞)
フランスでも中国製の通信機器を排除する動きがあります。
フランスの複合企業ブイグは2028年までに国内3000カ所にある中国の華為技術(ファーウェイ)製のアンテナ基地局を撤去する方針。
引用元:仏ブイグ、ファーウェイ製アンテナ基地局撤去へ 8年で国内3000カ所(ロイター)
中国製が危険視されている背景は「国家情報法」
中国製の通信機器・電子機器が西側諸国で危険視されている背景には、中国の国家情報法という法律の存在があります。
国家情報法とは?
国家情報法は2017年に施行された中国の法律です。国家の安全保障や利益を守る目的でつくられた法律ですが、この法律の存在が、中国メーカー製の通信機器が排除される流れを生んだ主な要因となっています。
国家情報法は中国国内の個人や企業に対し、政府の情報活動に協力する義務を課しています。このことが、懸念を生んでいます。
例えば、中国に有益な米国の技術情報を入手できる在米中国人エンジニアが、中国の情報機関にスパイ行為を働くよう指示されれば拒めない。中国企業も同様だ。(中略)
中国政府は否定するが、米国防関係者は中国製通信機器に「バックドア(裏口)」が仕込まれ、そこを経由して米国製の機微な軍事技術が中国に吸い取られているとみている。引用元:中国「国家情報法」米に衝撃 ファーウェイと取引停止(日本経済新聞)
分かりやすく言うと、中国メーカーが中国政府の命令を受けて自社製品を情報収集の道具として使う恐れがあるということです。
また、サイバー攻撃に悪用されるリスクも懸念されています。
政府は外国製の情報通信機器を通じたサイバー攻撃を防ぎ、例えば原子力関連施設を故意に誤作動させられるといった事態を避けようとしています。
引用元:重要インフラの海外IT活用、なぜ規制?(日本経済新聞)
相次ぐ中国によるサイバー攻撃
中国政府の関与が疑われるサイバー攻撃は以前から確認されています。
米人事管理局は23日、7月に発覚したサイバー攻撃で連邦政府職員ら約2150万人の個人情報を盗んだハッカーが、同時に最大約560万人分の指紋の情報も盗んでいたと発表した。米政府は中国が攻撃に関与しているとみている
引用元:米政府人事管理局の大量情報流出、「中国が最有力容疑者」と米高官(日経XTECH)
中国のハッカーが中国共産党に関する米下院特別委員会のモーレナー委員長になりすまして関係者にメールを送り、米中貿易協議の情報を得ようと画策していたと報じた。中国政府が関与している可能性があるという。
引用元:「中国のハッカー」米議員になりすまし 米紙報道、FBIが捜査(日本経済新聞)
中国政府の関与については言及されていませんが、2015年に日本年金機構がサイバー攻撃を受け125万人分の個人情報が流出した事例でも中国系の組織の関与が指摘されています。
手の込んだウイルス「エムディビ」を使いこなす攻撃者とは、誰なのか。複数の関係者に取材した結果、中国系の攻撃組織が関与した可能性が浮上した。 (中略) 中国は長年、米国を標的にしたサイバー攻撃作戦を実行してきた。
引用元:一連のサイバー攻撃に新証拠 中国系組織が関与か(日本経済新聞)
逆に米国や台湾当局が中国をサイバー攻撃したとして、中国政府が米国や台湾の関係者を「指名手配」した事例もあり、サイバー空間では静かな戦いが繰り広げられています。
何が危険で、何が危険ではないのか
何が危険で、何が危険ではないのか整理します。
中国メーカー製電子機器のリスク
最もリスクが大きいのが、中国メーカー製の「通信機器」です。記事前半でも指摘した通り、中国メーカーは国家情報法により、中国政府の命令を受けて情報活動に協力する義務があります。通信機器が情報収集やサイバー攻撃に悪用される懸念があります。
個人情報が収集されるイメージはつきやすいですが、例えば遠隔操作されて日本の政府機関のウェブサイトに大量のアクセスを送信することでサーバーをダウンさせる、あるいはウイルス付きのメールを送信するといったサイバー攻撃も懸念されます。
中国以外のメーカーの中国製は?
米国企業のAppleや日本企業のソニーも中国で多数の通信機器を製造しています。製造元が日本あるいは米国メーカーの場合、中国にある拠点が中国政府の「命令」を受けるリスクは否定できません。とはいえ、メーカーがその指示に従うリスクは中国メーカーと比較して低いと言えるでしょう。リスクが無いとは言い切れないものの、開発拠点や売上先も大部分が中国を占め中国政府に逆らいづらい中国メーカーと比較すれば、他国メーカーは中国への依存度が低く、中国政府による不当な命令に従うことで得られる利益(中国国内での売上)よりも、失う損失(中国市場以外での売上)の方が大きいからです。ファーウェイの売上に占める中国の割合は70%ですが、アップルは2割以下、ソニーも1割程度と低いです。
日本や米国、韓国、台湾には、中国の『国家情報法』のように国民や企業に情報活動への協力を義務付ける法律は存在しません。