アバストはなぜ無料なのか、日本法人に聞いてみた
アバストのセキュリティソフトはなぜ、無料で提供されているのか。その理由をアバスト日本法人の社長に直接聞いて得た情報をもとに分かりやすく解説します。
目次
世界一のシェアを誇るavast
本題に入る前に、アバストについて簡単に紹介します。
日本では20年近く前から「無料ウイルス対策ソフト」として、PCにある程度詳しいユーザーの間で知名度のあるブランドです。2016年には同じく無料ウイルス対策ソフトで知られる同業のAVGを買収しています。
日本では必ずしも知名度が高いとは言い難いアバストですが、Windows用セキュリティソフトとしては長らく世界シェア1位を維持しています。「無料」だからこそ、多くの人に利用されていると言えます。
アバストは「フリーミアム」のビジネスモデル
アバスト日本法人が設立された際に呼んでいただいた説明会で、アバスト日本法人の社長からアバストは「フリーミアム」のビジネスモデルであるとの説明を聞くことが出来ました。フリーミアムとは何か、分かりやすく解説します。
無料版はお客さんを集める「餌」
ご存じない方もいるかもしれませんが、アバストは有料のセキュリティソフトも販売しています。アバストプレミアなどの製品があります。
アバストの無料ウイルス対策ソフトをインストールすると、画面右下にポップアップが定期的に現れ、有料版の購入を促されます。
また、PCのスキャンをするといくつかの「問題」が見つかったとレポートしてくれることがありますが、その「問題」を解消するには有料版を購入する必要がある場合があります。
無料版をインストールして利用しているユーザーに、有料版を買ってもらう一連の流れが、アバストが得意としているフリーミアムと呼ばれるビジネスモデルです。
意外と多い、有料版に転換するユーザー
アバストはセキュリティ対策に必要なアンチウイルス機能など、最低限の機能は無料のまま使うことが出来ます。ほとんどのユーザーは無料のまま使い続けています。
一方、使い続けていくうちに有料版を購入するユーザーも一定数いるのは間違いありません。仮に4億のユーザーの内の1%でも有料版を購入してくれれば、それだけで400万ユーザーです。アバスト有料版は1年で3500円程度するので、それだけで年間売上140億円です。
なお、アバストの年間売上は800億円以上です。セキュリティソフトは一度購入すると同じブランドを使い続けていくユーザーが多いため、ストックで顧客が積み上がっていくビジネスモデルであるため無料→有料版への転換率は定かではありませんが、高くても数%以下ではないかと思われます。
ソフトウェアだから出来るフリーミアムモデル
トヨタ自動車が無料で4億台の新車を配ることは不可能です。アバストがフリーミアムのビジネスモデルを実現出来るのは、ソフトウェアという製品の特性との相性が良いという背景があります。
無料ユーザーが増えてもコスト増は小さい
ソフトウェアを複製するコストはほぼゼロ円です。同じコストを掛けて開発したソフトを100人で使おうが、1億人で使おうがコストがそのまま100万倍に増えることはありません。もちろんサーバー代などのコストはユーザー数に比例して一定程度掛かりますが、セキュリティソフトの開発費用と比較すれば大きな出費ではありません。
フリーミアムはセキュリティソフトを含め、ソフトウェアやウェブサービスと相性の良い戦略です。
ユーザーが増えた方が都合の良い面も
セキュリティソフトの場合、お金を払ってでもユーザー数を増やした方が良い、と言える側面もあります。
PCを狙ったウイルスは、世界中で新種が膨大なスピードで生み出されています。2010年時点で既に「1.5秒に1種」というスピードだったので、現在は更にそのスピードは加速しているでしょう。
最近はプログラムの動き方をスキャンしてウイルスかどうか判別する取り組みも増えていますが、その仕組みを強化する上でも、ウイルス情報を広く収集することはセキュリティソフトの性能向上には欠かせません。
アバストは世界シェア1位で、世界中に広くユーザーを抱えており、ウイルスの検体収集という観点からも強みがあると言えます。無料ユーザーを増やすことは、将来の見込み客を増やすと同時にそうしたネットワークの強化にも繋がります。